聖謐のマニフェ
ハァモニィベル
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揺れうごく海の十字路に惑う貝のように耳をかたむけて聞いてくれ過去の響きが詩人の影をなぞるように血が谺する想像の蜜のほとりで死に絶えた喜びに養われた真実だけをそっと告げてくれ灰色の病める神がいくつもの空を旋回して陰鬱に舞うまで瑠璃色に裂けてゆく星に細やかに苛立つ慰めを探しながら口唇の浜辺を這ってゆくあの言葉でできた潮騒の韻律にのって古えに咲く花がいま朝露に射抜かれて萎れながら重い荷を堕ろすこのモナドの頌歌を暗証のヘルメスに贈り返されてしまうときが訪れる迄絶えず変容する逆接の仮面でそっけなく凝視する不眠から眼を逸らして鏡のような鼓膜へとことばを反響させていてもただ上辺だけ写実に震え出す森の中の細すぎる茎と刈人のもつ角笛の乾きはてた内壁がはげしく擦れて渦を巻き時折り隆起した水面が片翼で彷徨う天体の仮りそめの砦に風化しきる迄回帰する螺旋階梯の、逆円錐の二つの底には暗黙に散らばった真珠のような世界卵が洞窟の瘤のような痛さで今もまだ鮮やかにただ燿り輝くのみ
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[2016.3.28〕