肯定
葉leaf



例外なく、夜は長いものだ。人は夜の長さから逃避するため、夜に眠ることを覚えたのかもしれない。夜になると時間は凝固して、空間はつぶれてしまう。そして恐るべきことに、眠ることを許されない夜もある。
私は今年度かなり忙しい日々を過ごしていた。仕事で疲弊した上に、決定的な衝撃が加えられ、全く意味不明な事態に襲われてしまった。私は周囲には「バカンスに行った」と説明された。確かにバカンスだった。オーロラの見える北極への極寒のバカンス。何が起きたやら自分でも収拾がつかないまま、傷を抱えて、自らの会社での地位を確保するために憂鬱すぎる心身を動かして交渉に向かった。何人かの上役の取り計らいのおかげで、辛うじて復職した。
だが、復職といっても新しい環境に行くわけではなく、同じ職場に戻っただけなので、事情を知った人間による心無い口撃は少なくなかった。私の人間性も疑われ、回復の道のりはノイズの混じった困難なものだった。
そうしてようやく心の闇から抜け出し、霧が晴れたころ、年度末となった。帰りの電車に乗りながら、不意に「俺は今年頑張ったぞ!」と叫びたくなった。社会では一人で生きていかねばならぬ。組織でトラブルがあってそれでも組織に残る場合、他人からの助けには限界があり、あとはすべて挫けない心で自ら回復を促すしかない。私は精いっぱい頑張って、無事異動も決まった。そう思うと涙が流れた。
年度が明けると同時に長い夜が明けようとしていた。夜明けは肯定の時刻。私は困難を乗り越えた自分の努力を肯定し、そこには夜明けの光が差してきたのだった。


自由詩 肯定 Copyright 葉leaf 2016-03-26 16:39:20
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