僕の町の包帯
山犬切

工事現場の作業音は窓越しに聞こえる
家を出る時 ドアを閉めるとその音は ドアの外の俺には聞こえても 家にはその音は聞こえないという
世界とそういう関係性にあることを いつも通り確認したら
鍵を閉めたかはどうでもよく 多数の十円玉と一円玉を 足裏にセロテープでくっつけたまま 外へ出ようかとおもう
泥団子のように粉砕を覚悟しながら 下り坂でもないのに平坦な道を転がっている 屈辱のいつものパジャマ姿で
地面は空みたいで 空は地面みたいだ だから逆立ちしているような気持ちになってくる
すれちがう自転車の窓から 見えるのは理科の実験風景  駄菓子屋から 聞こえてくるのはメタル系の音楽
そこのとっくに卒業した小学校が 昔クリアしたゲームのラスボスの住んでいる堅固な城のような ミニチュアに思える
僕ですらない僕を 僕だった僕が 他人だから あざ笑う
むかついたが そいつはいつもトラックにはねられてしまう そのトラックの運転手こそ中学時代の万引きの真犯人だ
普段心は玄関しかない その奥で舌なめずりしている 居間やキッチンやテーブルからは 潮騒が聞こえてくるのか
絶句 沈黙 静寂はどうしてそれ自体うるさいのか
午後になると かならず唾をかけられる
電信柱をかじるような味がする鉄臭い時間の過ぎ方に これからどうしようかと悩んでいるうち
鼻血が止まらない ティッシュじゃ足りない 鼻血が止まらない あれから5年とか どんどん長くなっていった 僕の町の包帯は


自由詩 僕の町の包帯 Copyright 山犬切 2016-03-18 11:53:18
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