父の顔。
梓ゆい
(冷たい・硬い・重たい・臭い)
別れを告げた父の姿だ。
私は離れたくは無かったのだが
参列者の手前
抵抗するわけにも行かず
黙って棺のあとを追う。
山のへりに並ぶ猿たちの群れ
まるで行列を見守るかのように
大きな瞳をこちらへと向ける。
「余計な一言はいらない。」
最後に交わした父との会話は
また帰っておいで。
ベッドの上に腰を下ろし手を振る様は
もうそろそろ行くよ。と
言っているかのように見えた。
皺一つ無く敷いた新しい布団
ラップに包んだ少し厚めの刺身数切れ
綺麗に飾りつけた季節の花
「父はもう、嬉しそうに笑わない。」