少女の物語
独奏

1人の少女が命を絶った
たった数分の出来事だった
まだ現実に少女がいるようだった
その少女は夢があった
モデルになって、女優になる
世界に羽ばたきたかった
大きい大きい夢だった
少女は本気で目指していた
モデルになるには脂肪はいらない
無理なダイエット、溜まっていくストレス
頑張っていても結果はついて来ず
まだまだと繰り返すダイエット
体調は悪くなり、顔色も良くない
頬は削げ落ち、肉は無くなる
少女は本気で夢を見ていた
まだ幼いころから教育されてきた
反動で体重はバウンドして
もう笑うしかなくなった
食べても食べても喉は通らず
食べては吐き、食べては吐き
生きて行く手段は水しかない
幻を見始めたのもその頃だった
大好きなあの人が毎日殺しにくる夢
眠ることも許されなくなった
少女は安心を求めるために手首を切った
赤い血は全てを忘れさせてくれた
それから夜が訪れる度に
少女は手首を痛めつけた
赤い血を見つめて眠りにつく
すると見ていた夢はハッピーエンドになっていた

楽しんでいくとは苦しむこと
少女は本気で考えていた
手首以外に楽しむ方法を
見つかったのは闇がかかった霧のようだ
味を覚えてしまった
少女はもう抜けることができない
足はどんどん埋まっていく
少女はそれに気がつく事なく
今日も夜、手首の赤を見て眠りにつく
夢は少しずつ変わっていく
ハッピーエンドの手札がない
時間だけをかけてハッピーエンドを待つ
それが少しずつ長くなる
そしてある法則を見つけ出す
たくさんの赤い血を見るとハッピーエンドは早く
少ない量だとなかなかハッピーエンドが迎えに来ない
この法則を見つけてから少女は少し楽しくなった
今日はここ痛めつけた
期待以上の血が飛び出した
私もこれくらい期待されていれば
女優なんて簡単なのに
モデルはどんどん遠くなっている
手首を痛めつけてる人は多い
それは現実から目を背けたいから
だから現実を追い求めているから
一度染み付いた姑息は剥がれない
こすってもなかなか落ちない
そもそも痛めつけるのが間違い
少女は時間を見て、手首に目をやる
そろそろ眠りにつきたいな
早くハッピーエンドにしたかった
いつもよりも深く傷をつけた
そして眠りについた
ハッピーエンドは迎えに来なかった
親友が少女と心中する夢だった
ハッピーエンドからバットエンドになった
たくさんの汗をかいて少女は目覚めた
まだ眠りについて2時間くらい
もう一度眠らないと、そう思った
でも少女の力では眠れない
赤い血を見ないと夢に行けない
でも殺される夢は見たくない
そうか。あの法則を思い出した
もっと赤い血を見ればいいんだ
まだ乾いていない生暖かい血が流れている
手首だけではダメ
首も痛めてみよう
案の定、赤い血はたくさん出た
まだ満足のしない少女はお腹を
赤い血を見た少女は眠りについた
ドアを開けて母親が少女を起こす
少女は朦朧とした意識で眠っていた

少女が行ったのは天国だった
それは言葉にできない幸せな気持ち
安心して眠りにつけたらしい
王子様が迎えに来るときまで
少女は夢の中で夢を見ているんだ
天国が幸せなんて分からない
でも少女にはハッピーエンドだった
風の噂で聞いたんだ
少女がまた手首を切ったらしい
そして笑いながら眠ったらしい
それも少女の夢かもしれない
そして僕たちも少女の夢の世界で出来た者かもしれない
僕は今まで何してきただろう
少女が作った夢が僕を作ってしまった
少女が天国に行った
僕は空を飛んでいる
少女はまだ夢という本を読んでいるんだね


自由詩 少女の物語 Copyright 独奏 2016-03-09 07:56:58
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