大阪湾景
大覚アキラ

鋼鉄のキリンどもが
夕陽に照らされて
朱く燃え上がりはじめると
このありふれた景色にも
特別に美しい瞬間が訪れる
陽が落ちきるまでのほんのわずかな時間

第3セクターで作られた
この海沿いのショッピングモールは
もはや決して立ち直れないほどの
絶望的な赤字にまみれていて
館内案内のパネルには
空きテナントの表示のほうが多い

こんなどうしようもない場所にも
こんな市場経済から見放された場所にも
恋人たちはやってくる
いつの日か彼らにとって
このどうしようもない場所が
思い出の場所になったりするのだろうか

ソフトクリームを舐めながら
朱く燃えるキリンを眺めていると
サイレンが奏でる陳腐なドヴォルザーク
そして
暴走族と呼ぶには少なすぎる
わずか3台のバイクの気の抜けた爆音

気がつけば陽はとうに落ちて
キリンはすでに重い灰色の空に
誰かが描いた巨大な落書きみたいな
立体感のない不吉な黒い影になって
溶けたソフトクリームで汚れた手を
蔑むように見下ろしていた


自由詩 大阪湾景 Copyright 大覚アキラ 2005-02-22 08:09:29
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