夜毎の木乃伊
岡部淳太郎

私は眠る
掛け蒲団の左右を身体の下に折りこみ
脚をやや開きぎみにし
両手を身体の脇にぴったりとつけた
直立不動の姿勢で
寝袋にくるまる旅人のように
防腐処理を施され
身体中を布で巻かれた通俗木乃伊ミイラのように
首から下を蒲団にすっぽりと包まれて
じっと天井を向いたまま
深い
そして浅い
眠りの中へと入ってゆく

夜毎
一種の儀式のように繰り返される
木乃伊の眠り
もちろんわたしはファラオでもなければ
太陽の子でもない
ましてやドドンゴの使い手でなどあるはずがない
私はただ眠る
木乃伊の姿勢で
まるで眠っているみたい
と称される死者のように
まるで死んでいるかのように
動かずに眠る

かつて王は永遠の生を願って
自らを木乃伊と化さしめた
夜毎こうして
このような姿勢で眠る私は
生きているのか
死んでいるのか
私が女を抱いて
その女が子を産み
その子もまた成長して
新たな女に子を産ませれば
観念的にも
遺伝的にも
私の生は永遠につづくはずなのだが
それなのに今夜も私は
ひとりで眠る
横に眠る女もなく
自らの生死も確立出来ぬままに
ひとりで木乃伊の眠りを 眠る

そして朝が来て
木乃伊の寝床は乱れ
木乃伊は木乃伊ではなくなり
ぼんやりといきりたった
時の住人となる
夜毎の木乃伊も朝になれば
曖昧な生の中だ
遠かったのか
近づきつつあるのか
その記憶の中で
私はくしゃみをする
長いような
短いような
夢の中で
私はどんな女を犯したか?






(注1)
この詩は、作者の睡眠時の姿勢からヒントを得て書かれた。妹に「ミイラみたい」と言われ、友人に「直立不動で寝ている」と言われたことにもとづく。

(注2)
第二連六行目の「ドドンゴ」は、「ウルトラマン」第12話「ミイラの叫び」に登場した、ミイラ人間を守護するために現われた怪獣。


自由詩 夜毎の木乃伊 Copyright 岡部淳太郎 2005-02-22 06:01:24
notebook Home 戻る