忘れたことが多すぎるけど少し
竜門勇気


詩を書き始めたのは高校生の頃。
現代詩集という投稿サイトに狂ったように詩を書き続けた。
ドコモのimodeのせいで人生も狂った。
不満だけは人よりあった。未来はそれほどじゃなかった。
一攫千金を考えた。それが身の丈に合わないことがすぐ分かった。
鏡を見るように自分の醜さが見えていた。水晶のように透き通った自分が見えた。
生きていることは、間近の水面を見る溺死だと思った。
手を伸ばすとボチャボチャと無残な音が聞こえた。
水中の暮らしは数分の希望をたぐり寄せる無謀と知った。
視界の端に映る人々が息継ぎをする。上手に見える。
口の中にめいいっぱい空気を含んで嫉妬がうまくなった。

一度に開けるページが僕の詩で埋まった。
軽薄でカラッポな自尊心が少し埋まった。
僕は飢えていた。飢えすぎて食うのを忘れていた。
詩に批判的な感想がついた。それが満腹のバケモノのゲップに見えた。
僕は噛み付いた。僕は汚れた枕の上で泣いた。
管理人さんは僕より怒った。僕は何がなんだかわからなくなった。
僕は立ったままでも目を覚ましたままでも泣いた。
傷ついた自尊心に瘡蓋ができた。癒える兆しだった。強くなる兆しだった。
それを僕は台無しにした。強くなることは負けだと思った。
鈍感になることだと思った。強さは暴力だとしか思っていなかった。
みっともない感情を誇りにしていた。
弱さにうろたえることだけを美学として。死ぬことを汚れのないことだと。
人の不快になることが真実で、気持ちよさは罪だと思っていた。
それを知って気持ちよさしか選べずに自分の決めた罪すら肯定していた。

僕は高校を卒業した。グラインドコアバンドにうつつを抜かしていた。
大学も受けた。観光のつもりで受けた。デッサンの一つもせずに宇宙人の絵を書いて帰る。
リトルグレイが花火を見ている。
止まった民宿は連れ込み宿で一晩中女の喘ぎ声と事が終わった男のため息を聴いていた。
たこ焼きを腹いっぱい食って帰った。
詩をまた書いた。その頃にはホームページを作っていて、掲示板も借りていた。
狂ったように書いた。飢えすぎて、腹が減っていないふりをした。
友だちができた。すごい詩を書く奴がいっぱいいた。
僕は負けていた。僕は詩でずっと誰かの苛立ちと自分の苛立ちを共有したかった。
それをみんなもうやっていた。僕は少し救われた。

言葉にならない爆発するような気持ちを表現したかった。
言葉にすれば、少し楽にはなるから。口に出来なかった気持ちを言葉で作りたかった。
グラインドコアバンドでは飽きたらなかった。
ノイズバンドを組んだ。即興演奏をするバンドだった。
打ち合わせ無しで20分ほどのバンド演奏を何度かした。
ドラムのやつとライブ中に喧嘩をした。殴り合いもした。
機材の弁償と出演禁止をお願いされた。受け入れた。
何かが冷えていった。後から別のライブハウスで『あれはマジだったんですか?』
そう聞かれた。なんと答えたか覚えてない。そうだよ、と言ったかもしれない。

ホームページの詩が千を超えた。最後は千三百ぐらいだったと思う。
僕が詩を書き終わるより先にホームページのサービスが終わった。
確かi-homeだったと思う。その終わるしばらく前に出会った人がいた。
たくさんのことは言いたくない。僕は恋をした。
そして終わった。その終わりの影をずっと追いかけている。
いつかはこの影に終わりを告げるつもりでいる。いつか。
お疲れ様と言われた。僕の詩はハードディスクにある。
ただ、あった場所にはない。
そういう風に影は有って無い。

新しくホームページを作った。昔のままで見れるように手伝ってもらった。
掲示板を新しく借りて書き始めた。
狂気は死んでいた。書いては消した。死んだままだった。
投稿サイトを探した。極道はつまらなかった。
質はどうでも良かった。カオスな場所が良かった。
現代詩フォーラムに投稿を始めた。最初は昔の詩をリファインしていた。
やり直したかった。新作を書いたほうがいいんじゃないかと友だちに言われた。
新しいのも書き始めた。うまくいかなかった。
出来損ないが評価されているように感じた。
それは逆だった。出来損ないでいようと決めた。
進歩をやめようと思った。

自分の詩をたくさん読んだ。出来損ないだった。
ただ、自分が出来損ないだと気づくだけだった。
でも、言葉じゃなかったことが少しだけあった。
僕が言葉にしたことが少しあった。

落ち込んじゃいけない時に落ち込んでしまう人たちへ
悲しんでしまったことが悲しみになってしまう人たちへ
寂しさが寂しい人たちへ
前向きな言葉が前へ進むことを拒んでいる人たちへ
自分のダメさを知ってあるべき姿との違いに苦しんでいる人たちへ
すべき事としたい事が殺し合ってる人たちへ
欲しがることがワガママだと思っている人たちへ
僕が言葉にできるように頑張ります。
こんなどこでも目にできる言葉の組み合わせじゃなくて
本当に心の、しっくり来る奴を言葉にできるように頑張ります。
寒い時に寒いといえるように。
寂しいとか悲しいなんて無神経な言葉じゃないやつを。
でもまだ僕も見つけれてないのです。
それまで無神経で乱暴な言葉を使うと思います。
応援してください。できればそれを見つけて僕のために詩を書いてください。
僕は寂しくて悲しくて傷ついていますが、
自分ではどう伝えればいいのかわからないのです。
たくさん本を読めばいいのか、たくさん傷つけばそれが癒えるのか、わからないのです。
探してみます。けど見つけたら教えて。
僕も頑張ってみます。


散文(批評随筆小説等) 忘れたことが多すぎるけど少し Copyright 竜門勇気 2016-02-18 03:16:39
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