珈琲は人を眠りに導く
人は冴えた頭脳と安定した精神で
目覚めながら眠るのだ
眠りのような精神の治癒と
眠りのような身体のほぐれと
人は明晰に読書しながら眠る
人は勤勉に労働しながら眠る

人々は珈琲を用いて意思疎通する
喫茶店のテーブルで交わされているのは
言葉ではなく珈琲の味わいだ
親しい友人同士は珈琲の苦さでもって
連帯し、悩みを分かち合う
喫茶店で人々は珈琲を交わし合っている

珈琲の濁りには世界の全てが詰まっている
この混濁した歴史や紛糾した実存や
単純な法則や無意味な災害や
すべてを混ぜ合わせて整えると
あの珈琲の色と香りと味わいになるのだ
珈琲を一口飲むたびに
世界の全体に絡み取られていく