鼻の鏡
あおい満月

脊髄の奥から、
おずおずと孔が湧いてくる。
孔は私の声になり、
私の体は大地へとひっぱられる。

手のひらに痺れを感じて、
見てみると黒い孔たちが、
もくもくと煙をたてて、
涌き出てくる。

私の身体の、
孔という孔から、
黒い孔がわき出てくる。
私は為す術もなく立ち竦む。

気がつけば黒い珈琲を見つめていた。
珈琲にうつりこむ私の、
目の奥の孔から孔がこぼれる。
地下道で解れた裾を縫っている。

私の鼻には鏡がある。
鼻の鏡はじっと私の鼻を見つめる。
大きくなる鼻の鏡は、
やがて目になって私を食べていく。

じゃりじゃりと砂を噛む、
前歯の音だけが、
誰もいない夜の台所に響く。
孔が溶かされてまた違う孔が湧いてくる



自由詩 鼻の鏡 Copyright あおい満月 2016-02-15 14:02:18
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