声のない唄
あおい満月

のばしすぎた、
左手人差し指の爪が、
引き裂くのは、
私という、
骨を持たないビニールの肌。

人差し指が描くのは、
未知という過去で、
私のいない、
ただ私の香りだけを響かせた
鈴の音に似た声で。

頭蓋骨が、
かちかち、
歯を鳴らしながら、
声のない唄をうたっている。
私の頭蓋骨は、半分がずれているから、
唄の端はずれている。
噛み合わない布の端々。
大きさからしてずれているから、
ほつれた袖口さえも縫えない。

風が去ったあとの地面から、
空に向かって母親の声がする。
眠りにすがりつきながら、
笑いながら泣いているあなたは
きっと誰よりも美しい。
私はあなたに近づけるように、
足元から伸びた樹を登っていくから。

左手人差し指の爪はカーブを描いたまま
押し黙っている。
私はまち針で指を刺して、
その血であなたを赤く染めるから。




自由詩 声のない唄 Copyright あおい満月 2016-02-14 14:21:47
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