君が教えてくれた
nonya


なんとなく
気配を感じて振り向くと
君は精一杯まん丸い目をして
じっとこちらを見つめていた

一番好きな映画の
一番良いシーンを横目で追いながら
僕は君の真っ直ぐな視線に負けて
しぶしぶ立ち上がる

カリカリを皿に注ぎ込むと
君は当たり前だと言わんばかりに
ガツガツと食べ始める

相変わらず鳴かない君は
ひたむきな瞳でたびたび
究極の二者択一を迫る

まだ幼かった頃
君はおぼつかない足取りで
部屋中の匂いを嗅ぎまくっていた
姿が見えないと大騒ぎした時は
すっぽりと仏壇におさまっていた

やんちゃ盛りの頃
君は思いもよらない高さから
人間観察をするのが好きだった
買ってきたオモチャには見向きもせず
ケーキの箱を括っていたリボンに
いつまでもじゃれついていた

最近の君はというと
胃腸の病気で何日か入院したり
左前足の腫瘍が原因で
指を一本切除したり
さすがに衰えが目立ち始めた

長生きすることが
君にとって幸せかどうかは分からないけれど
長生きを望むことは
人間のエゴなのかもしれないけれど
君の世界一扱いやすい下僕としての僕は
君のいない暮らしを想像することができない

有意義な撫でられ方
何をしても許されてしまう甘え方
後腐れの無い爪の立て方
箱の詰まり方
有無を言わせない見つめ方
極めてさりげない距離の置き方
善意と悪意の嗅ぎ分け方
逃げ足の磨き方
触られたくないオーラの出し方
心地好いスポットの見つけ方
叱られても折れないプライドの保ち方
完璧な熟睡の仕方
反省しないという生き方

全部
君が教えてくれた

僕は猫になるつもりはないから
何の役にも立たないけれど

そんな君も
今日でちょうど11歳

人間の歳に換算すると
還暦だ




自由詩 君が教えてくれた Copyright nonya 2016-02-12 19:08:35
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