ポケット
あおい満月

唇にできた黒い証を、
たくさんの指が掠めていった。
黒い証は、
誰の手にもぬぐいされはしなかった。

ある日、
舌に同じように、
黒い証を持つ人に出会った。
彼は私の唇を目で掠めていった。
その時、
はじめて私の唇の黒い証が、
剥がれ落ちそうになった。

林檎のように、
夜にかじられていく月の下で、
私たちは互いの黒を掠めあった。
黒を掠めあうたびに、
私たちは互いの内側の違う場所に、
できはじめていく黒を掠めた。

飴が口のなかで溶けている。
飴は薄い一枚の硝子になって、
その黒い証のある舌のなかで、
空のない星を探している。

手鏡がポケットのなかで鳴る。
私は手鏡を覗く。
手鏡に映った私の唇には、
星になった舌をもつあなたの黒い証が
星になって光を探している。



自由詩 ポケット Copyright あおい満月 2016-02-11 20:45:24
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