クリスマスの傾斜
田園

ある盲目の糖尿病患者は公園に捨てられた。
医療現場という受け皿で”あってはならない事”ではあるが、
数えきれない孤独とエゴとが、只の人を翻弄する。

誰が己を選べるか。
戦争の有る国、無い国。(それすら今や想定外が増え)
上流階級、下流階級。(中流とて何となるのか)
寿命を選べる国、選べない国。
だが己という個は選べない。
薄皮を一枚めくればすぐに、放置された全盲患者と姿がだぶる。

貧しさとはなんだろう。
そう問いかける者も、それは有るとすでに知っている。
ピカソの描く貧しい食卓は、今もリアルな青い光を放つ。
貧しさとはなんだろう。

夜毎に輝くネオンの裏に、
子供たちの祈りがこもるバイトのサンタに、
束の間の美しさと、途方も無い絶望を想う。

放置された彼は、公園で何を思っただろう。
人の気配も街のイルミネーションも関係ない、全くの暗闇。
その暗闇は、別段誰彼に限定する事も無くやってくるのだが。

綺麗で正しいものの裏側を、うまく隠しきれなかった舞台の裏側で、また一日を演じなければならない人という種。

己の哀しみをごまかしきれなかったピエロたちの舞は、天上天下のずれたこの世で、きっと今日も行われる。


自由詩 クリスマスの傾斜 Copyright 田園 2016-02-11 20:11:33
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