うたたね
ただのみきや

くるりと足を上げ
飛沫もあげずに潜って往く
小石のように すーっと
光がゆらゆら届く辺り
うたたね だから
すぐにまた浮上できる辺り


食事の後 うっかり
文字や何かに集中しようと
すると また すーっと
意識を外にうっすら残し
夢の浅瀬へ素潜りして
なにやら 探している


重なりそうで重ならない二枚の懐殻 
遠い人手が招くように戯れる 
胸がぱっくりと裂け 沁みてくる
小魚たちのクスクス笑い
裸でいる 恥ずかしい裸
水底で鈍く反射する 
銀の弾丸 みたいな あれは
――詩種 
つかもうとして 
つかめなかった
物語は
読めない潮流に翻弄されてあらすじを失くしていた
回想が女の髪のように辺りを覆う
美しい水死の花にこころは躍り
見開かれた闇に自己像のネガ
溺れ際の心地よい発泡
錯綜する言葉の足音 残響は光となり


――目を覚ます 
瞬間の赤ん坊は
握っていた 小指の先ほどの
神秘を 切なく 霧散して
現の空白を前に ただ老いる
かすれ果てた筆は影すら引けず
ただの棒切れであることに戸惑う


可逆性の種を夢と呼ぶ

イメージに変換できない真実が
わたしを殺しにやって来る

詩種(うたたね)は輪廻する




               《うたたね:2016年2月10日》






自由詩 うたたね Copyright ただのみきや 2016-02-10 16:58:18
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