国旗
あおい満月

鍵穴を覗く。
覗くと誰かと目があった。
誰かには見覚えがあった。
きれながの、
左目だけが妙に大きい。
それは私の目だった。
鍵穴の向こうに、
もうひとりの私がいる。
そんなはずはないと、
呼吸を整えてもう一度、
鍵穴を覗く。
鍵穴の奥の私は、
どんどん殖えていく。

がりり、
音がしてドアが開く。
そこには鋭い光を放つ月を
手にしたたくさんの私が、
私に襲いかかる。
たくさんの月の刃が、
私の皮膚を切り裂く。
私は手にしたガソリンを
たくさんの私にぶちまけ、
ライターで火を放った。
たくさんの私たちは、
蝋燭の蝋のように溶けていった。

私の腕が水になっていく。
腕だけではない。
身体全体が水になり、
目だけが残った。

雨が降っている。
雨水が排水溝に流れていく。
目だけになった私は、
排水溝から未知の海を目指して
流れていく。

洗濯物が国旗のように揺れている。
洗濯物の国旗を、
よく目を凝らして見てみると、
鋭い光を放つ月を持った、
ひとりの私が、
縫い針のような目をして、
目だけになった私を見ている。



自由詩 国旗 Copyright あおい満月 2016-02-06 15:47:07
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