しずく 秘名
木立 悟
背に花の生えた猫が
午後の雨を待っている
二つに分かれた坂道の
曇に近い方を歩いてゆく
休み休み進むのは
花が重いからかもしれない
午後に夜にひとつ咲き
朝に昼に三つ咲く
熱の爪跡が
街の通りに燃え
川は暗く
音も無く空を流している
曇が照らす径を
水のかたちの径を
花の背は歩む
光の波が
足跡を消してゆく
蝶や蛾の食事を
むずがゆくながめながら
海に近い家々をすぎる
雨はまだやって来ない
砂の上の金と緑が
空の名前を呼んでいる
背の花に埋もれ うずくまり
猫は二つの坂を見つめた
誰もいない道に落ちる
最初の滴を見つめていた