しずく 秘名
木立 悟





背に花の生えた猫が
午後の雨を待っている
二つに分かれた坂道の
曇に近い方を歩いてゆく


休み休み進むのは
花が重いからかもしれない
午後に夜にひとつ咲き
朝に昼に三つ咲く


熱の爪跡が
街の通りに燃え
川は暗く
音も無く空を流している


曇が照らす径を
水のかたちの径を
花の背は歩む
光の波が
足跡を消してゆく


蝶や蛾の食事を
むずがゆくながめながら
海に近い家々をすぎる
雨はまだやって来ない


砂の上の金と緑が
空の名前を呼んでいる
背の花に埋もれ うずくまり
猫は二つの坂を見つめた
誰もいない道に落ちる
最初の滴を見つめていた





















自由詩 しずく 秘名 Copyright 木立 悟 2016-02-04 09:19:13
notebook Home