鋳掛屋
梓ゆい

「砂場の中に、小さなスコップが埋もれている。」
幼い頃
父と遊んだ記憶と共に。
足跡を辿りたくて・確かに存在する思い出を取り返したくて
私は無心に穴を掘る。
「お父さん。お父さん。」
辿れども
辿れども
暗く深い空間ばかり。
「いつの間にか、何を見失ったかを見失った。」

ームイシキニサケテイタ、キオクノナカデ。-

薄汚れていた指の隙間から
さらさらと砂が落ちる。

ーコワシタモノヲ、セメタテルヨウニ。-

足元に積もるほんの一瞬
見えたものがあった。

絵本を抱えて座る父の膝の上。
鮮明に残る人参の赤と卵の黄色。

(後部座席で私は眠っている。振動をゆりかご代わりにして。)

寄り添って眠る私と妹たちを眺め
起こさぬようにと父は頭をなでる。
「どうか娘たちが、より良い人生を送りますように。」

祖父と祖母に連れられて
父はしっかりと手を繫いだ。


自由詩 鋳掛屋 Copyright 梓ゆい 2016-01-21 16:39:30
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