雑踏変化
北村 守通

何のために
東京に出向いたのだろう
しょんべんしながら
後ろ向きに走るためにだったのか
それとも
夜中のグランドに
ロケット花火を水平に打ち出して
土煙が上がるのを
眺めるためだったのか
けれども
府中は暖かく
国分寺は
私であった
小金井は
どの土地よりも
ホームグラウンドで
私は
きっと
それらのどこかに生まれてきていたはずなのに
各種の
証明書は
それを記していなかった
あの日々は
一体なんだったというのだろう
幻だったのだろうか



否否否否
確かに
確かに
覚えているのだ
そして
瞼に浮かぶのだ
足の裏に
思い浮かべるのだ
野川の
せせらぎが
耳の裏に
聞こえてくるのだ
けれども
高知にいるということが
大変幸せなことだということも
わかっているのだ
そうだ
私は
幸せなはずなのだ
豊かな釣り場がそこにある
豊かな食材に囲まれている
豊かな空間に囲まれている
しかし
私は知らなければよかった
なくすとわかっているのならば
持つべきでなかったのである
それでも
私は
知ってしまった
それでも
私は
触れてしまった
私は
愚かであった
私は
愚かであった
私は
愚かであるべきだった
私は
道を何度も踏み外していた
何度も
何度も
何度も踏み外していた
私は
故郷に顔向けが出来ないでいる
二つの故郷に
顔向けが出来ないでいる
私は
叫べずにぐっとこらえている
私は
ずっと一人ぼっちでいる
囲まれているがゆえに
一人ぼっちでいる
一人ぼっちでいる
一人ぼっちでいる


自由詩 雑踏変化 Copyright 北村 守通 2016-01-04 01:17:01
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