紫ピタゴラス「歩いたきり老人」
花形新次
寝たきり老人が
家族の厄介者であることは
偽らざる真実だが
だからと言って
正月に
「よし子さん、ちょっと
そこら辺散歩してくるわ」
と家を出てったきり
5年間音信不通のじいさんが
厄介者でないかと言えば
それも嘘になる
だが、この場合、じいさんが
いなくなったことを
誰にも知られなければ
年金もそのままなので
残された家族にとっては
寧ろ歓迎すべき事態となる
従って素朴な
家族感情としては
事を荒立てずに
そっとしておいて欲しい
と言うのが本当のところだ
(紫ピタゴラス詩集「大森キャベツ」より)