線路を隔てた迷子
深水遊脚

乗客の少ない
駅員不在のことも多い駅に
子供が取り残されて泣いていた

所々「ママ」「ママ」の混じった
ほぼ聞き取れない泣きながらの声は
受けとるもう一人の声がないままに
モノクロームの静寂を裂く

少ない駅の利用客の全員が
それぞれのことはしつつも
気にかけて見守っていたと思う
駅員はそのときも不在だったが
インターホンで迷子を知らせる
誰かの声を聞いた

違う誰かが子供に話しかけた
なにしろずっと子供は泣いていたから
会話にはならないけれど
少しは安心するのだろうと思う
こんなやりとりでも相手を安心させるような
言葉を 声を 私は持てただろうか

体格が似ていて眼鏡をかけた別の誰かについていって
わたしは父とはぐれたことがある
泣いて叫んで自分が誰かに知られることもなく
家の近くまで戻った私を
待っていた親たちがむしろ泣いていた

駅員は近くで
清掃か保線作業かなにかをしていたらしい
すぐに駆けつけ、子供を保護した
子供は無事ママに会えるだろうか
ママは子供を待っているだろうか

子供から目を離した親を責める声をあとにして
私は私の乗るべき電車に乗った


自由詩 線路を隔てた迷子 Copyright 深水遊脚 2016-01-01 20:57:41
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