骨のなかの血
あおい満月

切りつけた樹皮のような皮膚からの
血の疾走が止まらない。
血は螺旋になった虹のように、
この腕を伝いおりていく。
かたかたかたかた、
血の足音が三半規管を通過して、
押さえられた手のひらに谺する。
手のひらは私のものであって、
私のものではない。
それは放り去った過去どもの骸。

*

段ボールを持ち上げる。
段ボールの中には毬のような丸いものが入っているらしい。
わずかに背中に切るような痛みを感じて、
手から段ボールを落とした。
びりびり段ボールは裂けて、
なかから毬のような丸いものが転がった。
毬のような丸いものは骸だ。
骸の顔を、
私はどれも知っていた。
骸たちは泣きながら笑う。
黄色く黒い歯を剥き出しにして。
私は何故か、
その黄色く黒い歯の間に見える幽かな
光に見とれている。

**

私はその、
あざといほどの誠実さを食べた。
私はその、
あざといほどの誠実さと抱き合った。
私はその、
あざといほどの誠実さに泣いた。
私はその、
あざといほどの誠実さを愛した。
ただ、愛した。
骨のなかの血を貪りながら。
私はその、
あざといほどの誠実さに皮膚を削がれ、
肉を裂かれて骨になった。
私も骸になった。
私たちは互いを骸にした。

***

東の空が瞼を開ける。
裂かれた雲間から赤い光がふる。
荒野に置かれた骸たちは、
それぞれが無言の会話を交わしながら
目指す方へと向かう。


自由詩 骨のなかの血 Copyright あおい満月 2015-12-23 21:00:06
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