引越し前夜



一年で一番夜が長い日はまだ
私はこの街の住民で
ダンボールタワーの中で暮らしてる

一年で一番夜が長い日の次の日は
もう私はこの街の住民ではない
ダンボールタワーの中にはいるけれど

明日の今頃はもう
この家もこの浴槽も
私のものではない

明日の今頃はもう
私たちの生きた形跡も
無くなってしまう

今日最後だからって
わざわざ夕飯作って持ってきてくれた隣のおばさんも
明日からは他人になってしまう

どこか懐かしく感じた畦道
よく1人で通っていた小さな神社
いつも生き物がいる近くの小川
一面の田んぼに映る富士山
スーパーにいつもいる
マイペースなおばさん店員
(密かに私のお気に入りだった)
3両しかない小さな私鉄
.....

古ぼけた木箱の中に眠るガラスのような
キラキラした日常が
明日からは
かけがえのないダイヤモンドのような思い出となる。
明日突然ガラスがダイヤモンドに変わるのか
それとも
徐々にダイヤモンドへと変わっていくのかは
まだわからないけれど。


浴槽に近所の人から
もらった柚子を浮かべてみた

今日は冬至です


自由詩 引越し前夜 Copyright  2015-12-22 20:47:50
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