夜の子
光冨郁埜

はじめに くらやみがあって
(ここまでくるのにながい夜をくぐってきた
一枚いちまい重ねられていく
生まれるまえは
まったくの やみだったと
うすぼんやりとした 
陽だまりの まえにすわって
鍵盤を たたいている
ちいさな 私を 私はみた 

とざされた 窓を
やっとの 思いで あけても
そこにはまた とじた窓があり
その窓をあけても そのむこうに
窓が いくつもつらなっている

たゆたう くぐもった水に うかぶ 子
なにもかも 信じられずに
目を とじたまま
身を ちぢめていた

求めてみても みちたりることはなく
それでも 求めることをやめられないのは
この地に 私の 居場所がないから と

いつのころか うすやみが あって
私のなかの まったくのくらやみが
光る海の 底になって
やみが あおく 輝きを はなち
子 が ただよっている

うすやみにも
まったくの くらやみにも
とうめいな 光が さすことを
ひとたちは 黙せずには いられない

わすれさられてしまった ひとにも
陽の光は ふりつもるのだから
私は ついていくことにした

(そのひとは ひとの 祈り だった

陽の 光を みあげる
祈りは しずかに みちていく
そのひととの あいだに 生まれる
しずまりが
目と口を とじた子 となって
背をまるめ 手足をちぢめて
私のまえに 浮かんでいた

その子が くらがりにきえたあと
私は その祈りのひとを
ひっそりと 抱きしめていた
重ねられていくのは
私が生きてきた みちすじ

私の 傷あとと その祈り
そのひとの よこ顔を 私はみつづける

(そのひとは ひとの 祈り だった


自由詩 夜の子 Copyright 光冨郁埜 2015-12-20 19:20:07
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