大陰唇論
花形新次

堕落論の中に反戦思想を読む人の気が知れない。
十代前半から四十代後半の今までに少なくとも2万回は読んだが、
何回読んでも、8割りがたは戦争礼賛にしか見えない。
事実、戦争中ほど良い世の中はなかったと書いているぐらいで
戦争反対等とは一言も言っていないのだ。
もし堕落論を読んでこれは反戦論だと思った人は
文学には向いていないので、ラジオ体操でもしてください。

安吾が言いたかったのは、そんな良い世の中を作り出している人間たちの健康的で善良な姿が、ウソ臭くインチキなものだと言うことだ。
そして、そんな見てくれの良い上皮を脱ぎ捨てないと、人間の真の姿なんて分かりっこないと言っているのだ。
もっと言うと、人間の本質は、小狡く、小汚ないもので、それを正直に露すことが、真実に近づける唯一の方法で、安吾はそれを堕落と表現したのだ。
とことん堕ちるところまで堕ちることで人間の本質を知り、その上で、まだ信じられるものが見つかったのなら、それがその人にとっての真実に他ならないと言っているのだ。

なあ、君達よ。堕落するには有りったけの勇気と覚悟が必要なんだぜ。
何たって、孤独でなけりゃいけないんだからな。
それなのに何だ。善意を振り撒いてお友達作りに精を出しやがって。
そんなことだからいつまで経っても何処にもたどり着けないんだ。
いっそのこと、人前で自分の大陰唇でも引っ張ってみろ。
何かが見えてくるかも知れないぞ。


散文(批評随筆小説等) 大陰唇論 Copyright 花形新次 2015-12-18 00:16:36
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