スダチ「巣立ち」
花形新次

搾りたかった
何にでも
搾りたかった
握力はまだ
いくらでもあった

さんまでも
松茸でも
唐揚げだって
刺身だって
みんな
スダチだった

それが徳島だった

だから
きみが東京に行くと
言い出したとき
心配の余り
汽車のきみに向かって
袋一杯のスダチを投げ入れたっけ

きみの巣立ちに
こんなに相応しいものは
他にないと思って

(スダチ詩集「辛気臭い奴はレモン好き」より)


自由詩 スダチ「巣立ち」 Copyright 花形新次 2015-12-07 22:21:27
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