ハ長調を奏でる波長
凍月




それは

決して重い訳では無いが
無視できる軽さではないくらい
時計の針みたいに
三片の金属は回る
手のひらに乗るこれが、僕の心だ


「どうしようもなく君が好き」
と言える程の思いは僕には無くて
そうあるべきと いくら考えても
「ある程度は君が好き」
から先には進めなくて
それでも確かに想いは在った

小さな感情だから僕は
それを隠す事が出来た
2/3が一片の核心を収める鞘になる


しかし気付けばロックは外れ
其の想いは仄かでも硬く
カシャンと飛び出しては
僕の胸を刺す
痛いんだ
君の事を考えていると、いつも

いつしか時間は動き出す
不規則に乱れる時計のように
現れては隠し
現れては隠し
ぱちん ぱちん と
まるで目蓋を閉じる時の音
(君の姿が瞬いた)

君に知られてはいけない心は
裏側で同時に
君に此の感情を伝えたい と
次第にくるくると回り出す


慣れない手付きで
僕は此の感情を持て余す
呟いては隠し
吐露しては隠し
また体の奥が鈍く痛み始めた
心が鈍く光り始める
思慕と葛藤に研磨され
鋭さを増して僕を斬る
此の想いは凶器だ
血がぷつぷつと溢れ出す


僕は悟る
何時までも刃を隠せる道理は無かった事
僕が君に惹かれる限り
消す事も捨てる事も出来やしない
僕の恋慕は刃だったから
こんなにも苦しめられるのだろう

もしもいつの日か感情が
あなたの前で鈍く光る運命ならば
どうせなら綺麗に伝えたい
美しく気持ちを伝えたい
華と戯れ散る蝶のように
この どうしようもない片想い



旋回する長針
指を切る短針
連動する秒針
空回りする恋は
折り畳み式ナイフ
どくん どくん と
カシャン カシャン と
ハ長調を奏でる波長





自由詩 ハ長調を奏でる波長 Copyright 凍月 2015-12-04 20:11:05
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