幻聴
無地

幻聴の群れに踏みこんで
足を進める
虫のように文字が ざわわ と逃げて道をあける
体が重いから ゆっくりと行くしかないのだけど
ときおり腕をかすめたり
耳元で ぶうん と羽音がしたり
そのたび
肌がふつふつと沸いて 毛に神経が行き渡り
内臓が冷え 声がせり上がる

文字が耳から中に入ってきているのだ
かさこそ と鼓膜を撫でて 奥に忍びこみ
どろどろした死骸になり あばらの奥にたまる
わたしはだんだん臭くなる

うー、うー、と低い声でうなりながら
黒くなる体を抱きこんだ
全身 内側から 羽音が聞こえる
かすかな死骸の震えが伝わる

胸の中がかゆいかゆくてたまらない
熱くて痛くてかゆい爪がとどかない表面をかきむしっても


いつの間にか死骸が息を吹き返して
もろくなった細胞をつきやぶろうと


自由詩 幻聴 Copyright 無地 2015-11-27 02:54:16
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