サーモン宰相
レタス

徹夜明けで深い眠りのはずが
妻の巨大な鼾に起こされた
鬼の居ぬ間の洗濯…
そんな言葉が鼻先をよぎる
買い物ブギなぼくは
一日のうち5%程度はスーパーで過ごしたいのだけれど
鉄拳宰相はそれを許さない

どうにもままならない。
どうにも…

ねこ科の妻は
シャケの切身が大好きで
サルモ属に詳しいぼくの講釈を
ゆっくりと聞いている
ぼくはハエのようにてのひらを擦りながら
妻の機嫌を伺い
シャケの美味さを解く

今日は我慢をして
その先にはシングルモルトがあるのだから…
その希望を保ちながら
ゆっくりとその呟きに耳を傾ける
退屈なのだけど
ゆっくりと耳を傾ける

今日は甘塩の銀ジャケに脂がのっている。
冷凍庫には20切れほどの切身があるのだが
宰相である妻はその切身を眺めて
うっとりとしている
その下にある紅鮭も・キングサーモン・時しらず・ノルウェーサーモンも
すべては妻の所有物
南海に生まれた彼女がシャケが好きなのは
どうにも理解できないのだけれど
とにかく彼女は甘塩のシャケが好きなんだ

だんだんよくなる法華の太鼓っ!
夢は枯野を駆け巡り
シングルモルトは我にあり!

あれ…
シングルモルトの影もない
どこに往ったのかな…
ぼくは泣いた
鉄拳宰相が隠してしまったのは明白なのだ
ぼくは奸計をめぐらした

そもそも
キングサーモンはオレンジ色の身に脂を隠し
トラウトサーモンはピンクの中に
白い脂の筋を抱えながら
虹鱒が笑っている

いつの間にか
サルモ属の美味さを解く
ぼくはペテン師になってしまった
その気配をよそに
眠りから覚めた彼女はいった
鯖が食いたい

ああぼくはどうしたらいいのだろう


自由詩 サーモン宰相 Copyright レタス 2015-11-25 00:21:40
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