戦争
鷲田

“相手とコミュニケーションが取れない
この作戦は決行するしかない
我々には戻る場所が無くなった
補給する術も材料もない
我々は戦うという選択肢を取らなければならなくなった
この暮らしを守るために“

私達は戦争をしている
それは銃を持ってはいない
爆弾も投下しない
戦闘機が空で交戦することもない
家族が父や夫の死を悲しむことがない
平和という暮らしの中

外交交渉は上手くいった
太平洋に平和が訪れ、この島国の人々は守られている
米国が草案した憲法は70年もの間、国民の安全を確保し
今、この時代に私達は積極的な平和外交の夢を世界に語る

70年前の戦争はドラマ化され
8月15日には黙とうを行い
映像はYoutubeで流され
兵士の手記は公開され
東京裁判の正当性は検証された
歴史の視点は様々な角度から見直され
我々は謝罪し、謝罪し、時に政治ゲームとなる謝罪を否定した

随分と長い間だった
そしてこれからも長い時間が過ぎるだろうか
祈りと共に、誇りと共に

“もうこれ以上見たくはない
幾ら経っても状況は良くならない
人権という名の元に
正義という主張を振りかざし“

だが、私達は戦争をしているのだ
2015年の11月というこの時に
それはテロの被害が拡大しなくても
戦車がバリケードを薙ぎ倒して進まなくても
劣化弾が空から落ちることがなくとも
壮大な軍事パレードを行わなくとも

企業の買収合戦を見れば
設備投資の伸び率を見れば
消費者物価指数の目標値を日銀が果たせば
GDPのプラス指数の確保を政府が確約すれば
女性の社会進出を義務化すれば
会社での出世競争に身を捧げれば

肥大化した金持ちを見れば
貧困な男の路上での暮らしを見れば
過労死に追い込まれた若者の労働現場を見れば
3人の子供を育てる一人の母親を見れば
道端で突然刺された罪の無い女性を見れば
独り孤独に人生を終える老婆を見れば

私達は戦争をしているのだ
2015年の11月というこの時に
この平和の中

それは何も新しいことではなく
今まで起きてきた過去の繰り返し
私達が与えてきたもの
私達が与えられてきたもの

戦争は何時の時代も誰の為に行うか分からなくなる


自由詩 戦争 Copyright 鷲田 2015-11-24 23:01:32
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