会社
葉leaf

会社は個人の意思で動くものではない。下の者から上の者まで、多様な人間の意思が合わさって初めて意思決定して行動できるのである。下の者が文章を起案すると、上の者が次から次へとチェックしていき、同意を示すハンコを押す。これを決裁と言う。決裁権者というものが定められており、たいてい課長などが最終的な意思決定をするのだ。
ところが、この決裁がうまく行かないことがある。私の経験した例で言うと、期限内に書類を提出しないと営業上の大きな損害が生じるときに、書類について課長と係長の間で意見が一致せず、結局書類は間に合わず大きな損害が出てしまった。だが、損害よりも意思が一致することの方が大事なのだ。皆の同意を得ない文書を外部に出すなどいかなる場合も許されない。
さて、決裁は何事にも及ぶ。例えば私が長年付き合ってきた彼女と結婚するに当たり、部長の決裁を得なければならなかった。私はラブレターなどを添付して結婚する根拠をたくさん資料として集めたのだが、遂に部長の決済は下りなかった。私は結婚をあきらめざるを得なかった。だが、結婚よりも意思が一致することの方が大事なのだ。部長決裁案件で部長のハンコがない行為などいかなる場合も許されない。
私は仕事が嫌になって会社を辞めたくなったときがあった。辞表届にも決裁が必要な会社だった。すると不思議なことに辞表届は紛失してしまい、誰も決裁できなくなってしまった。私は数度にわたり辞表届を書き直したが、その度にどこかに紛れ込んで所在が分からなくなってしまうのだ。私は仕事を辞めたくて仕方なかった。だが、そんな気持ちより意思が一致することの方が大事なのだ。決裁が下りない以上仕事を辞めることもできない。
私には気に入らない部下がいた。思いの限り怒りをぶちまけ精神的に追い詰めようと思った。パワーハラスメントにも決裁が必要だ。私はすぐさま起案すると部下へのパワハラの決裁は速やかに下りた。私は思う存分部下をいじめてうつ病に追いやった。だがもちろん部下をうつ病として認定するハンコは押さなかった。部下は仕事ができないという理由で退職した。私は退職について喜んで決裁した。


自由詩 会社 Copyright 葉leaf 2015-11-21 04:09:52
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