爛熟
白糸雅樹
幼い頃に言葉を喰らいすぎたのだろう
ジャンキーであると気づいた時には遅かった
わたしのなかには茱萸の実に似たかたちのものが棲みついており
それが私を満たしがんじがらめにする
わたしは哀しいのだろうか
哀しんでいるのはわたしだろうか
塩辛く苦いその味に支配された端っこに
ふしぎがっているこどもがいる
紅く透き通った実が膨れあがる
破裂しそうなからだを抱えて
わたしは饐えた甘酸っぱい果汁を際限もなくしたたらせる
ダレカワタシヲ搾ッテクダサイ
わたしがわたしを認識するために
欲望が要る
(言葉が過剰すぎる)
幼い頃に言葉を喰らいすぎたのだろう
認識し定義し分類されてこぼれていくものがある
誰もわたしに触れられないだろう
饐えた果汁をしたたらせ
声をあげ
観客をもとめて身をのたうたせる
時ならぬ遠吠えに
町内の犬どもが不安げに合唱をはじめる
わたしは紅い実のえぐさを噛締めながら
足指の先から髪の先から
からだの芯から醗酵した果汁をしたたらせている
2005.01.30