爛熟
白糸雅樹

幼い頃に言葉を喰らいすぎたのだろう
ジャンキーであると気づいた時には遅かった
わたしのなかには茱萸の実に似たかたちのものが棲みついており
それが私を満たしがんじがらめにする
 
わたしは哀しいのだろうか
哀しんでいるのはわたしだろうか
塩辛く苦いその味に支配された端っこに
ふしぎがっているこどもがいる
 
紅く透き通った実が膨れあがる
破裂しそうなからだを抱えて
わたしは饐えた甘酸っぱい果汁を際限もなくしたたらせる
 
ダレカワタシヲ搾ッテクダサイ
わたしがわたしを認識するために
欲望が要る
 
(言葉が過剰すぎる)
 
幼い頃に言葉を喰らいすぎたのだろう
認識し定義し分類されてこぼれていくものがある
 
誰もわたしに触れられないだろう
饐えた果汁をしたたらせ
声をあげ
観客をもとめて身をのたうたせる
 
時ならぬ遠吠えに
町内の犬どもが不安げに合唱をはじめる
 
わたしは紅い実のえぐさを噛締めながら
足指の先から髪の先から
からだの芯から醗酵した果汁をしたたらせている

                      2005.01.30


自由詩 爛熟 Copyright 白糸雅樹 2005-02-18 00:18:50
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