アイラン
Miumi深海
ぼくは シリアで生まれた
たくさんの爆弾で 家が壊され
たくさんの人が 死に
父さんと母さんと シリアをでた
シリアをでて、トルコを歩き
港町で父さんは
高額の費用を支払い ボートに乗った
ゴムボートは 闇と波に漂い、さまよい
強い風のひと波に あっという間に浚われた
投げ出された人々は
阿鼻叫喚のなか
必死に 助けを求め
沈んでは泳ぎ 溺れては泳ぎ
無明の海を 足掻きつづけた
ぼくは 波間にねむっている
ギリシャに 行きたい
いや 本当は おうちにいたかった
爆弾でおうちが なくならなかったら
今も 父さんと母さんと 暮らしていた
沈まない船で ギリシャに行きたかった
爆弾の落ちない 家に住みたかった
ぼくは その朝
波うちぎわに
うつぶせに たおれていた
ひらかれた目は もうなにも見ていない
もう二度と 見えはしない
ぼくは 写真に撮されて
ぼくの写真は 世界中に配信された
世界中の人が ぼくを見たけど
ぼくがこの目で見たかったものは
SNSでは 見えないよ
波の音に 子守歌がまじる
この目は もう何も見えはしない
自由詩
アイラン
Copyright
Miumi深海
2015-11-08 13:46:38