線描画のような街
カワグチタケシ

線描画のような街
おびただしい数の
妖精めいた小さなものが
家々の窓から
わらわらと現れては
空に溶けていく
遠くから煙の匂いが流れてくる
人が消えるのは
こんな夕暮れだ

背が伸びて来年には
もう着られない服を纏い
妖精めいた小さなものたちが
ふっと街路に現れては
地面に吸い込まれていく
バスのドアが開けば
つい乗ってしまいそうになる
舗道にスプレーで印されたとおりに
下水管が走っている

ないものはない
と書かれた横断幕のような
ノイズ混じりのラジオの響き
居住地域別に犠牲者の
名前、年齢、職業が
読み上げられる
それはさながら
記憶を濾過する装置

それでも
棘のように残る
不在着信
留守録音
音信不通
原稿の束を託され
忘れていても彼女は
時々思い出して苦しくなる
貧しい羊飼いの娘
その姿を想って
胸を痛める


夏の傷が乾いて
かさぶたに変わる
雪が降ってきた
それは
とても白くて
とても冷たい

 


自由詩 線描画のような街 Copyright カワグチタケシ 2015-10-24 23:05:42
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