ウータンクラン
イシダユーリ
わたしは
ただ
目の前にいる
あなたたちが
わたしのことを
怖いと
思って欲しい
ただ 怖い と 思って、害を与えられた
と 眉を、目尻を、口元を、
すこし、
動かして
ああ
順番にあたまを撫でたい
もっと からだを
こわばらせたらいい
あの子どうしていなくなったの
ネットでみんな言ってるよ
もう必要ないみたい
息は
呼吸は
鼓動は
ただ
あなたの
感情を
昂ぶらせる
材料が
あれば
弱い
強い
といった
ことば
録音された声と
スローモーションで
階段を
おりる
後ろ姿
日付は消されている
誰もしらない
これからのことなのか
これまでのことなのか
重力に
したがっているだけで
それが快感だと
言っていた
(だれも)
(それを)
(聞かなかった)
きみは 点でも
線でも (なかった)
僕はあなたのいい息子でいられるでしょうか
私はよい国民でいられるでしょうか
と順番に続く告解が
立てられた中指を許すように
いつかわたしにも戦争がやってくる
遠ざかる背中をみながら
いい息子でなくてもいいんだと
つぶやく暴力が
涸れた喉を
完全に圧し潰す
僕は自分をこうやって立てて
土をふみつぶしながら
お母さんをあたまにのせている
お母さんを落としさえしなければ
どんな罵倒も響かせることができる
この土地は俺の土地か
この女は俺の女か
この時計は俺の時計か
この車は俺の車か
この金は俺の金か
この家族は俺の家族か
この国は俺の国か
それはどれもお前のものでは
ないのか
俺のものだと
なぜ
俺は
こんなに
唾を吐いて
言っているのか
これは俺の民主主義か
本当は
何も
言いたいことなどなかった
お母さんが
いなければ
よかった
そうすればこの風景はなかった
この身体は
俺の身体か
お姉さんも妹も
お母さんに求められなかったから
どこかに行ってしまった
戦争の前に
家族が
お前は
息子でいなければ
いけないと
言う
ほら
はやく
こわい
と言わなければ
ならない
俺は弱い
と言わなければ
ならない
全部
お前にくれてやりたい
俺は弱い
俺は犬だ
俺はかわいい
俺はこわい
お前はかわいい
わたしの耳元には
本当は震えているんだろうという声が
わたしが息子でなかったように
お前のからだも
切り離されている
こわいと
つぶやけばいい
わたしは
お前とは
はじめて会った
あの子どこにいったの
いまながれている声は
どういう意味を持っているの
どうして音がくりかえされているの
あの子
どこにいったの
もう
あの子は
息子ではない
と
お前は
鏡の中の
お前に
言えばいい
お前は
もう
息子じゃない