黒い道
ヒヤシンス
真っ白いキャンバスに原色を塗りたくっている。
塗るたびに黒く変色してゆく様を楽しむ。
いつしかすべてが黒になる。
今私の頭の中でまったく同じことが起こっているのだ。
ピアノの単音を端から叩いてゆく。
やはりいつしか黒くなる。
こいつも同じだ。
すべては黒で収まろうとする。
私も同じだ。
心の中で奏でられる素朴な音も思いつめれば黒くなる。
黒くなったそいつは異臭を放っている。
私の体もいつしか腐って異臭を放つのだろう。
せめて異臭を放つ前に真っ赤に燃やしてしまいたい。
燃えてしまう前になにか言葉を発するだろうか。
燃え上がれ、私の体よ、心よ、そして言葉よ。
黒ではなく真っ赤に染まってくれ。
すべての成熟した人間の内側には黒が潜んでいるのだろう。
そして最後には黒く燃え上がるのだろう。
キャンバスに描く黒はすべて偽者だ。
そんなものじゃないはずだ。
黒より赤が良い。
赤く熟したトマトを壁に向かって思い切り投げつけて
ぐしゃりと潰れて、飛び散る赤い肉片でありたい。
赤い鮮血も乾けば黒くなる。
結局黒からは誰も逃れられないのだ。
それぞれがそれぞれの人生を眺めればそこには影よりも黒い道筋が見えるはずだ。
人はそのときどんな言葉を発するのだろう。
やはり私の人生は黒かったなんて軽い言葉は吐かないだろう。
たとえようも無い程の黒い道が自分の後ろに長く続いている。
後悔しても始まらない。
人々は黒にどうしようもなく縛られているのだ。
ごまかしはきかない。
黒い道は悪の道だ。
誰もが少なからず悪の道に足跡を付けている。
嘆くことはない。
経験が粋な言葉を人々に吐かせるのだ。
今わかったことだが、黒は取り止めがない。
死がそれを止めてくれるのだろうか。
人は一線を越えるとすべて灰色になるではないか。
それこそは悪と善の結晶体なのだ。
黒黒黒。
黒い道が私の前途にも限りなく広がっている。
さようなら。