光のプラットホーム
ありか

列車のベルが心臓直下で響きわたる
蒼白い片道切符を握りしめた駅
朝露で濡れた手は容赦ない
初夏の日、快晴、音楽、赤血球
揺すりあううちに まとめて角がとれて

本能が吹きすさぶ山頂のこの駅では
太陽の幼子たちが楽しげに遊んでいる
熱圏をぬけた先にうつり込む
わたしの無機質な顔相も
烈火のごとく日周運動にかき消される

どこまでいっても言葉どまり
あの日の呟きが 耳から離れない
足を交互に出して背景を後方へ追いやる
ホームに向かう人々をぬって進む
別々の前を向きまっすぐ歩いているのに
ぶつからない不思議

あの日瞳をふせて
どこにでもある涙を 彼女は拭いた
かけ違ったピースは抱きあい
そうして傷つけあうことを
知ってしまったわたしは
あらゆる角をとってみせたかった

石の白線が焼ける かたちない快晴
心臓のなか 湧きたつ血はきっと
どこにでもかけつけるという合図
彼女のかわりに周囲の人々に告げる
無双の言葉 今ならとどきます
わたしたちはぜったいの
痛覚をもっているはずだった

列車が星の縁辺を過ぎつつある
もうすぐこの駅までやってくるだろう
出迎えなければならないと
ちぎれるように太陽の幼子が走る
きらきらと輝いて ぶつかりあいながら
ただ黙している駅員は石膏のよう
片道切符から生えなかった羽根

彼女の香りは赤血球にとてもよく似ていた
脳裏にある別の駅だろうか
列ができており
並べなくて泣いているのは
もう 踏み出せない――

足は別個についていて
そうだ列車を 列車を待っていたはずだった
血は 血は どこにだってとんでいく

人はいつもなにかを待っているから
発車のベル 息をはずませかけつけた
客がまばらのプラットホーム
普通に現在時刻を告げる時計
飲みこんだ血液に酔ったまま乗車する
窓から射す強い光につつまれて
角をなくしてまるまった音楽に
揺すられながら切符を千切る、蒼白い顔で


自由詩 光のプラットホーム Copyright ありか 2015-10-10 15:02:03
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