寒い声
岡部淳太郎

こごえる
声の
淋しい温度
舌は口の中に引きこもり
のぼってくる苦い味にじっと耐える
やわらかく
ただやわらかい音のままにこごえる
もえることのない白い声
たとえばここで
たとえばそこで
あるいは地球の裏側
四十六億年の時の向こう
四十六億光年の空の向こう
そんな場所でも
そのような声は無数に
ただひとつの声としてつぶやかれている
ふるえる
声の
淋しい音楽
ゆっくりとした音速
息は肺と喉の中で迷い
固い歯の奥の毒にそっと触れる
やわらかく
ただやわらかい音のままにふるえる
もえたことのない寒い声
夜の向こう
朝の向こう
そんな場所で
ささやきながらくずれる声
それらの声を集めて
建築する
雲の向こうの遠い記憶
眠りの中の
小さな声


自由詩 寒い声 Copyright 岡部淳太郎 2005-02-15 20:37:25
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