空の蝋燭
木立 悟





千歳の少女の誕生日を
誰も祝うものはない
一匹の蟻を避けて
十匹の蟻を踏む
淡く巨きな
泡のなかの午後


手を振るたびに
いのち以外に満ち
暗い街の背後の山から
ゆらりと煙の羽が降る


朝の径を
黒い樹々が歩いてゆく
一杯の水
あたたかな手
昼の遺跡をすぎ
なお歩きゆく


無数の虫の放つ
麻酔の弾に当たり
空に持ち上げられながら
穴だらけの眠りを眠る
夕べさえまだ遠いのに


千歳の少女が
湖の底を見つめている
千の蝋燭が
空に燃えている
気付くもの無く
燃えている


ドレスはどこへいっただろう
ドレスと氷のあいだには
一体 何年がすぎただろう
晴れの日をただ
受け入れようとして


星と同じ歳の生きものが
曇と話しつづけている
横すべりの空
風の彫り癖
とどまる時を
照らしゆく


幾度めかの滅びの日
少女は別のドレスを身に着け
何もかもが見えないほどの
蝋燭の煙のなかで手を結び
蟻を踏み泡を踏み歩き出す



























自由詩 空の蝋燭 Copyright 木立 悟 2015-09-22 15:44:11
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