ペーニャ
末下りょう


歯車はなぜ回転するのか分からず また分かろうともしなかった
まだ感傷的になれる夜とかがある
疲れると痛みだす傷じゃなく
背の低い面影
未開と欠如と不在と抵抗の熱帯のネガのようなもの
バチバチ点滅する外灯に石投げるバカ
跳ね返って 土に小汚い波紋
眠れない夜がもてあます眠らない夜
人気のない市民プール ツワモノどもが夢の青 傾いたフェンス
防水の時計が発光する
わざわざそうゆうものに嵌めかえてくる卑しさがある
裸足の親指の血マメが月明かりを引きよせる
冷たくて臭い水
水面の一区画に集められて浮かぶ落葉の背中はかたい
四角のなかで四角であろうとするなら有り難い
見張りはいない
まだいのちが自販機の下で鳴いている かりそめの翅音
ペンキの剥げた水底に鉄のスパナが沈んでいる
奪ったものは奪われて 泡の渦になってさようなら
セコいバタ足と25メートルの隙間にオダブツ
空耳しか聞こうとしない 遠くからサイレン
飛び込み台にまたがり水から抜いてイジるふやけたつま先の皮から目指したはずの場所がむきだす

その過去には内容がなく 未来には形式がない
白線もなく言葉を焼き捨てながら食い尽くしてすべて吐いた夏

笑えた保健体育と引きかえにゴミ箱で生まれる小蝿
椅子取りゲームで大人びた転校生の胸元にわざと倒れこんだ
通学路の草むらのビニール袋に隠したナイフと警棒
ポケットには黄色いカッター
ラブホテルの駐車場に並ぶ高級車に極太マジックでまんこマーク描いて
ピカピカのエンブレムはぜんぶ折った
Tシャツに手書きで死ぬまで間違えればそれモノホンと書いてみんなで着た
お前ら誰だと言われればそんなの知ったこっちゃないと言った
ゲーセンの便所でおろしたてのスニーカーを狩られた
そのダサいタトゥと色黒の顔はしっかりおぼえた
野良猫を3匹殺したと自慢する奴を袋叩きにした
嘘か本当かはどうでもよかった
そのあとそいつは猫の耳で首飾りを作った
親の財布から盗んだ金で北京ダックを食って殴られた
豚足のがうまかった
夜中の飛行場で裸になり滑走路を叫びながら走った
近ちゃんは糞したな
暗闇の懐中電灯がしつこく追ってきた 海まで逃げた
掻き集めた枯れ枝や新聞紙で焚き火して波の音を聞いた
いつの間にか砂で寝た
朝の砂浜に落ちてたスイカを安全靴で蹴り入れて割った
甘くて当たりのやつだった みんなで分けた
どっかの犬もうまそうに食った
ジュースを賭けて波間でプロレスしてのたうちまわった
ブルーザーブロディがプエルトリコで刺し殺された夏
貨物船と沈む夕日をみた
冷たい空気を吸いこみ 鼓動は遠ざかる
密告者は水に入らない
勝つことより欺くことで成立した空がある

つまらないと見なせばすべてがつまらなくなる
いまなら誰がいちばんながく息を止めて潜っていられるか

投げだされて
それをすこやかに対処するのは
とてもむつかしい

信じることでなにかを忘れる
信じることをやめたらなにが残る
答えを見せられたら
大声だして嘘泣きすればいい

肩をならべて牛丼食って
青く染まりきらない明け方の街に
カラスをよけながらハケるとき
飽きもせずにいまも
誰とはなしに腹からツァイツェン!





自由詩 ペーニャ Copyright 末下りょう 2015-09-21 14:48:15
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