ひたい
木立 悟




ひたいに浮かぶ舟の上から
手をのばし 指に触れていき
水紋は
遠くへ遠くへひろがってゆく


とても大きな朝があり
どこかへ低く消えてゆく
建物の陰に残る光
開け放たれた扉の光


踏みかためられた雪の道は
みな作り物のように優しい
会釈より白く 遠回りをする


川にあふれる舞いの真昼に
流れ込む鳥の声 水の声
蜘蛛の巣の空へと
響きゆく声


風のかたちに並ぶ雪から
異なる道は現われて
音は遅く 遅く届く


壊れた家の窓の光が
水紋の切れ端に触れてゆく
午後は ふいにやってくる


鴎と鴉が並んでとまり
胸の奥の紙きれを見ている
昏く まぶしく笑っている


遠いひとつの水紋が届き
刻まれた傷は歌になり
新たな舟を浮かべては
新たな空を渡りゆく


飾りを背負った十の目の羊が
夜を喰んで星座になるとき
金と銀の葉は眠ることなく
荒れ野のなかから歌を見つめる


すべての季節の
すべての吹雪を歩むもののひたいに
小さな火よあれ
小さな手よあれ









自由詩 ひたい Copyright 木立 悟 2005-02-14 22:07:43
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