きみのそばで凍る純粋の季節
ホロウ・シカエルボク








すべての店が軒を下ろした
真夜中の薄明るい街路を
ゆっくりとした速度でぼくたちは歩いた
その夜は12月みたいに寒くて
耐えられなくなるたびに
自動販売機で温かい飲み物を買ったよね
デパートのデジタル時計の下で
話すべき思い出がすべてなくなったとき
ふたりして長い長いため息をついたっけ
それからきみが手洗いに行きたいと言って
でもそのあたりには小さな公園の
鍵の壊れた個室しかなくって
ぼくは勇敢な兵士のようにきみのとりでを守ったっけ
申しわけ程度の植え込みで
秋の虫たちがドサ廻りの楽団のように鳴いていて
きみを待ちながらその音を聞いていると
古い小説みたいな気持ちになったものだった
風が強かったせいなのか
いつもよりたくさんの星が見えて
そんなことはきっと
何度もあるようなことじゃないって
そんな印象の真ん中に
いまここに居るきみへの思いを
言葉にすることなくはめ込んだ
ほんとうにぼくたちは
純粋過ぎて無力だった
こんな局面に至っても
鍵の壊れた個室に
右往左往するのが関の山だった
どうしてあんなに
すべてが終わることをあっさりと受け入れられたのか
そうさせないための手段は
きっと無限にあったはずだった
ぼくたちはきっと
少し不純になって
少し勇敢になればよかった
ほんのわずかの間の戦士ではなく
永遠に戦う覚悟のある戦士になればよかった
寒さに
凍えたりせずに
凛として歩けばよかった
9月の終わりになるときみを思い出す
どこかで目にした美しい肖像画を思い出すみたいに
そのたびにあの頃の純粋さを
強く強く恨んでしまうんだ
ねえ、ぼくは随分と
意地汚い男になってしまった
だけど
ほんとうに欲しいものを手に入れ始めたのは
そうなる覚悟を決めてからだったよ










自由詩 きみのそばで凍る純粋の季節 Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-09-19 23:47:55
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