幻視、桜
嘉野千尋

  風が吹いて、あたし
  かんたんに飛ばされてしまう
  未完成な結晶のすがた、まだ
  花にはなれない
  舞い上がって、遠いところへ
  行ってしまうなら、
  今がいいと、思ったのに
  伝えて、うまく笑えない
  言葉が見つからないんだって
  見つめる代わりに、
  ささやいておいて、耳もとに

  力をうしなう幻想のすべて
  芽吹くまえの、桜並木、
  薄紅にはまだ遠い、連なりを
  一瞬の、幻視
  桜の雨のなかに
  面影をさがして、あのひとの
  横顔でいい
  後ろすがたでいいから、
  あぁ、
  風が吹いて、あたし
  飛ばされてしまう、また
  花になれないまま




自由詩 幻視、桜 Copyright 嘉野千尋 2005-02-13 19:00:39
notebook Home 戻る