1985年頃は
うめバア

1985年頃は

クリスマスケーキを
駅前のお店で買って
家で食べるのが
1年でいちばん、楽しみだった。

お正月は7日まで静かだった
お店なんかどこも閉まっていて
いつもの景色がどこにもなくて
おだやかな空は
とてもよそよそしかった

正方形の食パンに
ジャムとマーガリン。
自動販売機には、
コーラとコーヒーとファンタがあった。
アイスはバニラとチョコとオレンジが主流で
レディボーデンは高級感を表した

1985年頃は
36色セットの絵の具が
欲しくて、欲しくて仕方なかった
金色と、銀色の、絵の具
贅沢と、わがままは
隣の席になら、いつもあった

受験生は1人
赤い石油ストーブの炊かれる部屋の中
ラジオが夜を流れて
孤独と、孤独をつないでいた。

歌は
歌謡曲と、ニューミュージックと、
洋楽と、演歌とに分けられていた。

かからなかったリクエスト
書かなかった葉書
いつか、いつか
いつかの向こうに
1985年頃があったと思う。

ワンポイントのハイソックスが
きらきら通り過ぎる、夕暮れ
キャラクター商品の
ペンケースや紙袋…
31種類のアイスクリームと
パステルカラーの
はしゃぎ声

ハート型のチョコレートと
短い言葉
雪の日のわたり廊下

みんなよりも少しだけ先に
追い抜きたかった

みんなと一緒に
駆け抜けたかった

そして今はもう
追いつくことはない
1985年頃

ざくざくと、霜柱をふむ
白い息をはきながら、歩いていく
何百もの紺色にうずまった
冬の朝。

1985年頃の、冬の朝


自由詩 1985年頃は Copyright うめバア 2005-02-13 18:01:17
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