たそがれどき
……とある蛙

夏の暑い日差しの中に佇む古いビル群
道路の照り返すビルの窓硝子の中
子供たちの笑い声が蝉の音とともに響き渡る
外には溶けかかったコンクリートの街並み
蝉の音を抱え込んだ街路樹
呟きが聞こえる
子供たちの全生涯の物音だ。

窓硝子から外が見えるはずなのだが
短い窓が子供たちの眼を隠す
通りを行き交う自動車の群れ
夏の照り返しは容赦なく子供たちを巻き込む
戦はそこまでやってくる
そのために君たちは銃を抱えた
大人にならなければならない
その言葉ははるか昔にも聞いた言葉だ

君たちの未来のために僕たちがルールを作る
われわれの作った事実の積み上げがルールだ
多数決こそルールなんだ。民主的な国家のルールだ。
自由なんぞ国がなければ無意味だ。
国があってこその君たちだ
国が一番大事だ。
国のためには何でも許される
法律など無意味だ
憲法なんぞ無意味だ
国があってこその法律だ、憲法だ。

一羽の鴉が窓枠をめがけて飛翔し
短い窓の中に鴉が夕陽と共に映る。
鴉の叫びが大人の意識を覚醒する
何のために窓枠に近づくのか
何のために夕陽の中を飛翔するのか
既にビルから吐き出された老人は
鴉の叫びを聞かない
その視線は動かない
二度とビルには来ないのだ
生きて帰ってこないで死んでゆく

短い窓に取り残された子供たちは
大人達の正義を虚ろな眼で聞く
大人達の理念とやらを虚ろな眼で聞く
小さな窓の外には鴉
夕陽は沈み漆黒の闇が
もう古ぼけたビル街を覆ってゆき
ビルの中に鴉の鳴き声のみ響く。


自由詩 たそがれどき Copyright ……とある蛙 2015-08-17 16:24:29
notebook Home