ターミナル
望月 ゆき

あなたがこどもになった朝も
遥かな場所で列車が発車し、低い速度ですすみ、
セイタカアワダチソウを揺らしている


イケブクロ ニ イキマス 
イケブクロ ニ イキマス
と、くりかえしながら
道いっぱいに、線路を描くことに忙しいあなたは
しばしば 世界から忘れられた
血の滲んだつまさきだけが、痛みを主張するけれど
それは どこまでもよそ者でしかない


あなたはかつてそこにいた
あなたはかつて午前七時の東京メトロに
あなたはかつて高層ビルの窓に
あなたはかつてキリマンジャロの山頂に
自らの足跡を見下ろし
鳥が鳥であることを仰ぎ、
空が空であることを嘆き、
生はどこまでも退屈で、無限だった


あらゆる過去も未来も削ぎ落とし
名前さえも沈黙の不要物だ、そうして
やがてあなたは歌になる


イケブクロ ニ イキマス
イケブクロ ニ イキマス


あなたがあなたの中にかえってゆく
ひとり、またひとりと 剥がれ落ちて
そこに誰もいなくなっても
描かれた線路は、昨日を弔い
今日と明日を縫合しながら ゆっくりと
その先のターミナルへと続いていく







自由詩 ターミナル Copyright 望月 ゆき 2015-08-14 22:08:06
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