終点
コハル

一切風が通らない部屋で息を乱していた
スチールデスクには埃が湿気を含み固まっている
東南アジアで押し付けられた色鮮やかな花器は
様々な銘柄の吸殻が横たわる墓地として
ただただ存在する いずれは消滅する
革張りのソファーはあまりに劣化し
末期病患者の皮膚を連想させた
何より空間の圧力を高め、また酸素を奪っている輩は
生前の祖父から受け継いだ夥しい文字の集積体
平たく言えば書物の山だ、こいつらがいけない
まとめて処分してやりたいが
生憎この部屋から一歩も外へ出られない

私の人生は何かが良くなかった
だが、その何かに気づいてしまったら、それこそ野暮だと
お気楽な脳味噌は気づかぬフリで
結局は怠慢で見つからず、喚いて弾ける寸前だった

田舎の畦道を散歩していたつもりが
メキシコの路地裏を素っ裸で転がされている気分だ
旅の途中で方位磁針を肥溜めに落としたせいか
はたまたヒッチハイクで捕まえたステルス戦闘機に乗り込んだせいか
摩訶不思議な経過に身を委ねていたら
最後に行き着いた先の
くらいくらい見慣れた
一切風が通らない部屋で息を乱していた 



自由詩 終点 Copyright コハル 2015-08-10 01:43:25
notebook Home 戻る  過去 未来