船出
しもつき七




舟に乗って川を渡る。きれいじゃない水に腕を浸して、汚れたワン
ピースのすそから、小麦色の脚をのばしている、太陽もない、だれ
もこない、きみが舵をとったくせに、行方不明なんておかしい



  きみの宝物はなに。

  危うさが私の宝物だった。



やがて岸が見えなくなって
あんなにうるさかった喝采もいまは恋しい
べとつく海風がぼくたちを運ぶ、港町の沖合いまで


舟に乗って川を渡る。きれいじゃない水に腕を浸して、髪も濡らし
て、おでこに付いた泥を、拭ってやると笑うから、まぶしい、湯気
を放つように明度を上げていく、小さい体を抱いている


宝箱をひっくりかえして目をつぶした
こんなものいらないよときみは
話し声





かわりはてた明るみのなかで、まだやわらかい、幼い死体があって、
女の子で、桜貝みたいな爪に土、こわくなって逃げた、ぼくは、ぼ
くが殺したわけじゃない、撲って、絞めて、そんな恐ろしいこと



朝食の時間だった。たべられる魚は泳いでいなかった。きみの肌と
おなじ色をした果物を齧って、図書室から盗んできた本を紐解く、
悪いことをすれば物語になれるというのは師の教えでした



きらきらの瞳
だけどきみが輝かせているわけじゃない瞳
血と水と偶然の効果
それだけ


他人だけがきみの味方
さわやかな言葉がただの旅をかざっていく
かつて宝石だった光を空に返して
やっぱりふたつの目はかがやく



ジュール・ヴェルヌの小説みたいです。冒険は終わらない、何度で
もめくられて、匂いのない、ただの古い紙になってしまっても、秘
密はずっとそこにあって、ばれないように震えている、風に舞って、

太陽が顔をだす!





自由詩 船出 Copyright しもつき七 2015-08-08 18:55:00
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