夏の少年
yo-yo

窓を開けると
蝉の嵐がどっとなだれ込んできた
熱風のかたまりを大きな捕虫網ですくい取る
いっぴきの夏を追いかけたまま
少年の夢はなかなか覚めない

布切れで父が
細長い袋を作った
針金で竹の棒に括りつけて
それで蝉をとるのだと言った
父について林に入る
アブラゼミ
クマゼミ
ミンミンゼミ
ヒグラシ
まさに一網打尽の
蝉だらけの夏になった
あれからあの
いっぱいの夏をどうしたのだったか

父と蝉とりをしたのは
それいちどきりだ
父の趣味は魚釣りとパチンコ
なにごともマジメにやらないと勝てない
父に教えられたことはそれだけ
息を止めて蝉に近づき
いっぴきずつ掌をかぶせて捕える
少年の夏は
とうとう父親には及ばなかった

ことしも蝉たちは
マジメに蝉の夏を騒いでいる
変わらない虫たちの
豊穣の嵐が追いかけてくる







自由詩 夏の少年 Copyright yo-yo 2015-08-08 11:12:59
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