ふと
南無一


人は なぜか 
ふと
思いつくことがある

仕事の帰り道 疲れた躰を 運びながら
ふと
夕暮れの空を 見上げて

金曜日の夜 スナックで ふざけながら
酔いつぶれた その 陽気な笑いの中で
ふと

人は なぜか
ふと
目覚めることがある

もしかしたら、
おれは何か重大な思い違いをしているのかもしれない


しかし それは ほんの 一瞬の
ふと
にすぎない

次の瞬間には また 重い足取りで
ふざけた陽気な笑いの中に紛れ込んで
なおも 酔いつぶれる

しかし やがて そんな ふと が
おぼろげに それでも はっきりと
人の心の澱みに忍び込み
そっと 爪痕を 残してゆく

自分にさえ気づかぬ 爪痕。

そんな ふと を 無意識につづけながら
人は なおも 生きていくのだ

死ぬときに気づくだろう
そんな ふと というものの かすかな爪痕に
自分の躰が ずたずたに
切り裂かれていることを・・・。
 


自由詩 ふと Copyright 南無一 2015-08-02 22:37:37
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